静電破壊試験


電子工作の入門書を開くと、どの書も口を揃えて「C-MOS部品は静電気に弱いので、取り扱いには注意すること」といった旨のことが書かれており、初心者の恐怖心を煽るものとなっている。しかし、どのぐらい静電気に弱いのか、あるいはどのぐらい静電気に強いのか、ということを知っておくのも重要な事であろう。

当然ながら素子の破壊は電圧が高ければ高いほど、印可時間が長ければ長いほど起こりやすくなる。実は、メーカーのICデータブックを開くとそのような事は記されており、入力ピンに何ボルトの電圧を何秒かけると壊れるかということがグラフになって出ている。しかし、指先からICに青い火花が散ったとき、何ボルトで何秒の放電があったかなんてことは一々分からない。取りあえず感覚だけでも掴みたいので、ICを実際にぶっ壊してみることにした。

犠牲者となったのは、シュミット入力インバータであるところの74HC14(東芝製)だ。こいつは、下図のように入力と出力を繋ぐと狂ったように発振する。



で、コイツにバチバチと火花を飛ばし、発振しなくなれば「壊れた」と判断することにした。

さて、勤務先に居るある極悪な人物は、次ようなお言葉を述べている。「電子機器を不良で返品する前には必ずトドメをさすこと。何故なら、中途半端に動くと修理する人が戸惑うので、完全に破壊させるのが親切心というもの」らしい。この理論が倫理的に許されるかどうかはさておき、トドメに物理的破壊を施すと保証は失効する。外観上の破壊無しに殺るには、「電子ライターでパチパチするのが効果的」だとか。



氏のありがたいお言葉に従い、電子ライターを用いて74HC14にあの世へと旅立っていただく事にする。ただ、電子ライターは普通に点火しただけで感電するような仕様だと大いに困るので、ライターの外側まで火花が飛ぶことはない。従って、内部で起きている放電を外部で起こすように改造する必要がある。そのため、取りあえずバラすのだ。構造は意外と簡単、細いラジオペンチが一本あれば完全分解が可能だ。



上図部品のうち、一番左下にあるのが圧電素子が入っているモジュールだ。圧電素子は電圧をかけると歪む性質がある。これを利用して数キロヘルツのパルスで歪ませると音が出たりするのでブザーになったり、もっと高い周波数だと超音波が出たりする。逆に、圧電素子を物理的に歪ませると電圧が発生する。電子ライターに限らずガスコンロなどの「カチっと点火」する類は、バネの弾力を利用して圧電素子を強く叩き、歪ませることにより数キロボルトパルスを発生させている。これが放電してガスに火がつく仕組みだ。



圧電素子の話はさておき、ライターの中から電線を引っ張ってきて、ICのピンに放電するように改造する。通常は、赤い○で囲まれたところから、ガスの出る噴射口へと放電するが、改造後はこの電線へと放電するようになる。この電線をICのGND辺りに繋いでおくと、赤い○のところからICのピンへと火花が飛ぶわけだ。というわけで、実際にやってみる。



というわけで、実際にやってみる。

取りあえず5回パチパチ...これぐらいじゃ壊れない。
もう10回ほどパチパチ...まだ発振してやがる。
電源を切った状態でもパチパチ...変化無し。
全ピンに数え切れない程パチパチ...まだ壊れない。

とやってるうちに、いい加減に指が疲れてきたのでやめしまった。パチパチする度に割と豪快な青白い火花が飛ぶわけで、最初は連続で10回もやれば壊れるだろうと簡単に考えていたのだが、意外と丈夫にできているものなのだ。その後も入力と出力を外した状態で攻撃したりと、考え得る手段は全て尽くして虐待してみたのだが、結局死ぬことはなかった。コイツだけが特別に強いんじゃないかと、転がっていた74HC04でも試してみたが、結果は同じ。

サンプル数が少ないので結論とは言えないが、私的な見解として「アマチュアレベルで使う汎用ロジックを扱うぐらいでは、取り立てて静電気に関して神経質になる必要はない」と言って差し支えは無いと思う。(ぴかちゅうは除く)


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