電気的火遊び2(炎の整流作用)


 おさらい

図1 前回の電気的火遊び1(炎の電気抵抗を計る)において火炎に電気伝導性があることを書いたが、前章の実験では図1aのようにデジタルテスタを炎で電気抵抗を測定してみることでそれを確認した。

抵抗値測定モードに設定したデジタルテスタは、被測定物に電流を流すため、図1bのようにテスタを乾電池と見做すことができる。つまり、テストリードのプラス極とマイナス極は、それぞれ乾電池のプラス極とマイナス極と等価である。このことから、前章の実験では、炎に直流電源を繋いで電流が流れることを確認した、ということになる。

図2 ところで、炎が気体であることを除き、これが金属の電線と同じような導電体であると考えれば、上の図1においても炎に電源を繋ぐ際の極性を指定する必要はないと思われるかも知れない。そこで、炎に繋がれた電源の極性を変え、電流が流れる方向を逆にしてみると、どういうわけだか電流が殆ど流れなくなる。図2aのような向きであれば電気は通るが、図2bのような向きでは電気が通らない。言い換えれば、炎には一定方向にしか電流を流さない性質があり、早い話が炎には電気を整流する作用があるというわけだ。


 ならば交流を流してみる

炎に整流作用があるのなら、炎を通った交流は半波整流されて出てくるはずである。早速やってみるのだ。

トランス AC12V

図3 最も手軽な交流電源として東京電力が挙げられるが、コンセントに来ている AC100V をそのまま使っては感電しそうでおっかないので、トランスで AC12V 程度に落としてから使うことにした。オシロで見るまでも無いが、いちおう見ておくと 50Hz の綺麗な正弦波を拝むことができる。

前章と同じ実験装置であるブタントーチの炎に、図3のような形でトランスやオシロを接続して実験してみた通してみた。これまでの観測から、炎は図中のダイオードと同じように機能するはずである(ダイオードは、AからKに向かってしか電流を流さない。電流が流れるような電圧のかけかたを順方向バイアスという)。

これをオシロで見ると、確かに整流されている。火炎整流器とでも呼ぼうか。

火炎による整流 1N4001による整流

もっとも、火炎整流器はシリコンダイオードといった現代的な整流素子の代わりになるようなものではない。比較のため同じ電源をダイオード (1N4001) で整流したものの波形を横に置いたので見比べて頂きたいが、炎で整流したものは何となく波形が乱れているし、逆方向への漏れ電流も少なからずある(でも、何故か逆回復特性のカーブがダイオードとは逆になってる)。しかも、オシロの入力を押すことすら苦しいのか、電圧も下がってしまっている。

<免罪符>なに、オシロの繋ぎ方が逆だって? それは言わないお約束...</免罪符>

ところで、交流を整流して出てくる電気は、時間の経過によって電流の向きは変化しないものの、大きさが脈のように変化するので安直だが脈流と呼び、何となく矛盾した説明だが、脈流とは交流成分を含んだ直流である。そのため、交流から直流を作るときは、常套手段として整流器の後ろに平滑用のコンデンサを入れて脈流の交流成分を取り除き、なるべく理想に近い直流を作ることが普通だ。というわけで、手元に転がっていた 1uF のケミコンを入れてみた。

1uF のコンデンサ 1s/div

右の写真は、1s/div。何とも恐ろしいカーブ...


 なぜ炎は電気を整流するのか

図4 電流とは、つまるところ電荷の移動であり、その源は電荷を持った電子やイオンなどの動きである。分かりやすくするために話を電子に限定すると、電子が電源のマイナス側からプラス側へと流れたとき、電流は電子の流れとは反対にプラス側からマイナス側へと流れる。電流を一方向にしか通さない整流器とは、言い換えれば電子の一方通行路である。

火炎中における電子の流れを考えてみよう。図4のような形で炎に電圧をかけたときは、電子は図中の青い矢印のように、バーナから炎の先端に挿入された電極へ向かって火炎の中を流れているはずである。このとき、電流は電極からバーナに向かって流れる。ここで電圧のかけ方を図4とは逆にしたとき、電子の流れが逆になってくれさえすれば、電流も逆に流れるはずである。ところが、どういうわけか電子の流れは逆にならず、電極からバーナへと飛ばなくなるため、電流は殆どながれなくなり、炎が整流器になってしまうと考えられる。

どうして火炎中で電子(あるいはイオン)がこのような動きをするのかは良く分からないのだが、ある方から「炎の根本よりも先端の方に電子やイオンが多く存在している」という旨のメールを頂いた。火炎中で発生して炎の先端へと飛んできた電子やイオンは、周囲の空気とぶつかり、炎の先端にイオンや電子の吹き溜まりができるからだそうである。この話は、前回の火遊び実験で得られた「炎の根本よりも先端の方で電気抵抗が低くなる」という結果とも一致する。

そうだとすれば、炎の根本と先端に電極を入れて交流を流した場合、炎の先端に挿入された電極がプラス側になったときにのみ、(電子は負の電荷を持っているので)電極の周囲に存在する電子が電極に引き寄せられて電流が流れる。逆に電極がマイナス側になったときには、電子が反発するので電流が流れにくくなると考えられる。こんな具合に電極間の電界の力と、火炎中の電荷の動きが関係していることは確かだが、これが正しいかどうかは、全く自信がない。

図5 このような電子の性質を整流作用を最も分かりやすく応用しているものが、図5にあるような二極真空管である。金属を加熱すると、金属の表面からは熱電子と呼ばれる電子が真空中へ飛び出すようになる。

そこで、真空に二枚の金属電極を封入し、一方を陽極、他方を陰極として陰極のみをヒータで加熱する。この状態で陽極と陰極にそれぞれ電源のプラスとマイナスを接続した場合、陰極から飛び出した電子は二枚の電極間からの電界の力を受け、陽極へと吸い寄せられるので電流が流れる。しかし、電源を逆に接続した場合は、電子は陽極と反発しあうので電流は流れなくなるので、真空管も立派な整流器となるわけだ。

参考文献

疋田強:「火の科学」(培風館,1982),ISBN 4-563-02016-8
室岡義広:「電気とはなにか」(講談社 ブルーバックス,1992),ISBN 4-06-132911-1



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