蜜柑の皮むき


拙者、蜜柑が大好きである。ところが、蜜柑には外側の皮のみならず、中には薄皮も存在する。温州(うんしゅう)蜜柑なら薄皮ぐらい食べても平気だが、八朔や伊予柑のようなゴツイやつは、どうも食べる気にはならない。かといって、これを一々剥くのも面倒な話。なんか上手い剥き方はないかな、と思っていたら蜜柑の缶詰の話を思いだした。缶詰蜜柑に薄皮は存在しないが、パートのオバハンがズラリと並んで手剥きしている訳ではない。薬品で処理しているそうなのだ。



というわけで、今回は伊予柑に本魔女裁判の犠牲者になっていただくことにする。取りあえず、ここまでは手剥き。

聞くところによれば、まず蜜柑を薄い塩酸に浸し、その次に水酸化ナトリウム水溶液に浸すと皮が剥けるらしいが、なぜそうなるのかはよく分からない。実験の結果わかったのだが、塩酸のみ、あるいは水酸化ナトリウムのみに浸しても効果は薄く、両方に浸けた場合のみ上手くいく。さて、塩酸も水酸化ナトリウムも、きっと間違いなく絶対に、どこのご家庭にも常備されていることであろう。え、無い? まさかそんな事はないと思うが、無い場合は印鑑を持って薬局へ行けば、1000円もあれば買えるだろう。



まずは、塩酸処理から。どのぐらい薄いか、なんてことは気にしない。鉢に適当な量の水を入れ(ぬるま湯の方が効果的かも知れない)、チョビチョビと塩酸を入れる。で、蜜柑を浸けるのだ。写真でも分かるとおり、観察していて分かるような反応や変化は見られない。本当にこれで大丈夫のなのかと、心配になるほど静かなものだ。しかし、10分ほどおいておくと、何となく皮がふやけてくる。その辺を目安に、塩酸から取り出して水洗いする。



そして、次に水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)処理。精神衛生的に気持ち悪さを感じない程度の薄い水溶液を作る。



で、蜜柑を浸けるとこの通り、液が次第に黄色っぽくなってくる。みかんを入れられても断じて寡黙を貫く塩酸とは異なり、色が変わるという煽情的な反応を呈す水酸化ナトリウムは、マッドの心を確実に刺激するのだ。しかし、それは飽くまで溶液の話であって、肝心の問題である蜜柑の皮は剥がれる気配すら見せようともせず、大した変化は見られない。取りあえず、このまま10分ほど放っておく。



そしてこれが処理前と処理後の蜜柑の比較。ご覧のように、皮はふやけて柔らかくなっているが、完全には剥がれているわけではない。しかし、十分に柔らかいので処理後の蜜柑を水洗いするだけで皮はボロボロと剥がれていく。水洗いの副作用として種も取れ、食べられない部分は完全に除去される。



これが完成品。勿論だが、この方法で剥いた蜜柑を食っても健康に影響はない(自分で食ったけど、生きてるよ)。仮に水洗いが不十分だったとしても、塩酸は水酸化ナトリウムは処理の過程なり胃の中なりで中和されるから少量なら残留していても問題はない。ただ、蜜柑を一個剥くのにこの仕掛けを使うのはやや手間だと思う。しかし、大量の蜜柑を剥く必要があるのなら、それなりの省力化は見込めるだろう(お誕生日会でガキどもが大勢やってくる、とかね)。

後から調べて分かったのだが、工業的に蜜柑の缶詰を作る工程は、全部自動化されているそうだ。温州蜜柑の外側の厚い皮は熱湯で柔らかくし、ローラーにかけると剥けるらしい。そして、剥かれたものは水圧で房をバラす。バラされた蜜柑は、塩酸と水酸化ナトリウムで薄皮で柔らかくし(重要なのは柔らかくするだけで、剥けるのではない)、更に水圧をかけて洗浄すると同時に柔らかくなった薄皮を除去する。最後にシロップとともに缶に詰めるとのこと。

昔から薬品で「剥く」と聞いていたが、そうではなくて「柔らかくする」のに薬品を使っていたのだった。

で、桃の缶詰もよく売っているが、あれはどうやっているのだろう? 桃の皮はデリケートな割に、缶詰のそれは美しく剥かれている。従って、刃物ではなく薬品を使っていると考えるのが妥当だろう。実験してみたいのだが...この時期、残念ながら桃は売っていない。桃が出てきたらやるつもり。


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