注意一秒怪我一生


悪夢の始まりは、1999年8月6日午後8時頃のこと。

包丁の切っ先が左手の人差し指に接触したことを脳が認識したその瞬間は、痛みも出血も認められず「う、やっちまった!」と、胸中で叫んだだけだった。

ところが、まな板の上に指から切り落とされたとしか考えられない肉片を発見したとき、いま起きたことが予想ほど容易くないことに気付く。何故なら、その身体の切れ端は単に皮膚が剥がれ落ちて出来たものではなく、肉まで切り落とされていたからだ。

幾許も無く、傷口より生暖かい血液が景気良く溢れ出してきた。まず手に取ったティッシュペーパがみるみる間に赤く染め上がり、そして患部を流水で洗浄すれば下水管へと流れる水までもが薄赤く着色する。これはいけないと、圧迫による止血を試みてら、約10分後のこと。

一体、どんな思考回路がどう動いてしまったというのだろう。出血が収束に向かうや否や、絆創膏よりも先にデジカメとノギスを取り出し、思わずネタにしてやろうと考えてしまったのは、慢性的ネタ不足故だろうか。



傷口の大きさは、最大の場所で12ミリ程度。だが、この写真からでは、何が起きたのか良く分からないだろう。



しかし、別の角度から撮影すると、明らかに何ミリか窪んでいる。結局、刃物による怪我の中では、今までの人生で最悪のものとなってしまった。



これは事故発生時から約20分後の様子。取り敢えず絆創膏を貼ってはみたものの、まだ出血が完全に止まったわけではなく、次第に血で染まってしまう。どうでも良いが、爪が伸びていて、彼女不在が丸出しとなってしまった写真でもある。

指を切ったとき、包丁を持つ手に殆ど抵抗を感じなかったのは、よりにもよって数日前に特に念を入れて包丁を研いだばかりであったからだろう。それが幸いしたのか、災いしたのかは判断しかねるが、いずれにせよ「人生で最悪」ながらも「美しい傷口」となったことは確かである。

さて、切り落とされた肉片は、無理に張り合わせるわけにもいかず、生ゴミとして捨ててしまった。剔られた部分がどう治癒してゆくのかが、これからの楽しみである。経過は、見栄えがするようなら写真に撮って掲載するかも知れない。


続編:ケガのかんさつ日記



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