UPSをバラす


当たり前だが、クロネコヤマトとつるんでいる運送屋のことではない。PC周りの電源信頼性を向上させるため、無停電電源装置、つまりUPSが欲しくなった。実を言うと、ここの商用電源は信頼性が非常に高く、停電することはほぼゼロと言っても過言ではない。ごく希に瞬断はあるものの、停電が起きるとすれば電気メーターの交換や法定電気設備点検、あるいはブレーカ断などの、人為的でローカルな原因によるものが殆どであろう。そうなってくると、商用電源の信頼性とUPS自体の信頼性と、どっちが高いかという問題になってくるぐらいである。

UPSを購入した理由は、突撃実験室内には電気製品が多く、あまっさえ冬場は電気暖房に頼っているため、ブレーカがバチンと落ちちゃうことが時々あるからだ。ここに入居したときには、配電側の小さいブレーカの容量が電力使用量に見合っておらず、毎日にように落ちていた。それでは困るので、(本当はいけないのだが)勝手に配電ブレーカをもう一回線増設し、電子レンジなどの消費電力の大きい機器を振り分けて負荷分散を行った。それはそれで効果はあったのだが、調子に乗って使ってると今度は30Aのメインブレーカが情け容赦なく落ちてしまう始末。こればかりは小細工をすると東京電力様に叱られそうなので、手はつけていない。

そこで、本質的な改善ではないのだが、落ちては困るPC周りの電源にUPSを授けたという訳だ。前置きが長くなってしまったが、さっそく買ってきたのはAPCの Smart UPS 700(一般的にSU700)だ。700VAの容量があり、インバーターの定格は450Wである。個人で使うには少々大きいものだが、要するに気違いというのか、ここではPC3台と17インチのモニタぐらいは問題なく動作させたいので、ちょうど良いぐらいだろう。

ちなみに、UPSには商用電源が切れた時にのみインバータから電源を取り、通常は商用電源をそのまま使う常時商用給電式と、商用電源もわざわざ整流してから常にインバータを通して使う常時インバータ式とがある。前者は比較的安価なものの、後者は劣悪な電源状態でも常に安定した電源を供給できるというメリットがある。しかし、常時インバータ型は値段が高く、またインバータが常にハム音を出すため、同じ部屋にいるとやかましいらしい。SU700は前者の常時商用給電式であり、普通の住環境で使うなら、むしろこちらの方が良いと思う。



早速だが、解体する。まず、バッテリ交換はユーザーでも行えるようになっているため、バッテリを取り出すのは全面のパネルを外すだけで良い。このように松下製の12V、7AHな密閉型の鉛蓄電池が2本入っており、直列に繋いであるのでDC電圧は24Vだ。



UPSを買うときにどのぐらいの容量のものを買えば良いかは、やや難しいところかもしれない。当然ながら接続させる機器の消費電力やバックアップさせたい時間にもよるし、インバータの効率などもあるので一概には言えない。例えば、こいつのように7AHのバッテリがついている場合、理論上7Aの電流で1時間持つ計算になるが、実際はその3分の2、あるいは半分ぐらいしか持たないのではないかと思う。



試しに、PC2台と17インチのモニタ1台、それから8ポートのHUBをインバータで駆動させ、バッテリ端子の電流を測ってみた。PC一台はCeleron 450MHz駆動にハードディスクが2基とCD-ROMが3基、もう一台は、Pentium 166MHzとハードディスク1基の、いまご覧のサーバーである。合計の消費電力はどのぐらいか知らないが、これで10Aちょっと流れた。モニタもある割には意外と少ないように思うが、まあこの負荷なら30分も粘ってくれれば良い方だろう。もっとも、モニタを消せば電流は5A程度に収まり、サーバーだけなら更に少なく、1時間ぐらいは動いてくれるはずである。



更なる解体を行い、基板を外してみた。ここは弱電部で、ここでインバータの制御や全体の管理を行っているものと思われるが、ご覧の通りやたらと部品点数が多い。それも何故か金属皮膜抵抗を多用。US製であるためか、良く分からないICが多いのだが、ぱっとみたところでは真ん中の大きいICがマイコン、その他は殆ど汎用ロジックだが、ADCと思われる部品もあった。電圧・電流の情報をCPUにフィードバックしているのだろうと思われる。赤と黒の電線は、バッテリに繋がるものだ。20A程度の大電流が流れるところだが、基板に直接半田付けされており、パワーコネクタなどは使われていない。



こちらが、同じ基板に乗っかっている電力部。目立つのは、インバータ用の、計12個のパワートランジスタ(FET?)だ。普通のTO-220型だが、型番が2S×○○○とか、USの半導体型番である2N○○○というような一般的なものではなかったので、何であるかは不明だ。各ヒートシンクに取り付けられた3つのトランジスタは並列に繋がっており、それを一単位として4ステップな擬似正弦波(能書きでは、出力は「ひずみの少ない正弦波」とされている)を生成しているようにも見えるのだが、なにせゴチャゴチャとしていて、詳しくはよくわからない。4枚のヒートシンクは、簡素なアルミ板一枚に過ぎず、ファンなどはなく自然空冷である。実際に使ってみても大して発熱しないようで、効率は良いようだ。

そのほかに目立つものと言えば、ZNRチョークコイルなどの電源正常化部品がたくさんついている。商用電源で電源を供給している間にも、サージやノイズを除去するものだ。また、黒くて四角い部品はリレーであり、4個も乗っている。うち一つは商用電源が切れたときにバッテリに切り替えるためのものと、もう一つは主電源のスイッチだと思う。残りの2つは、どうやら商用電源に電圧降下や上昇が発生した場合に、バッテリを使わずに電圧を正常範囲内に戻してくれる自動電圧調整機能に関係しているようだ。初めはどうやってるのかと不思議に思ったが、回路的に見て、後述するトランスにタップを取りそこを通して電圧を昇降しているだけのようだ。難しく考える必要はなかった。



で、こいつがでっかいトランス。手前の2つのタップは低圧側の方で、先ほど説明したインバータの出力はここに繋がっている(写真は線を外した状態)。ここにAC24Vを入れると、反対側にAC100Vが生まれ、これが停電時に供給される電源となるわけだ。さらに、高圧側にはタップが4つある。写真の向きが悪いので分かりにくいのだが、青・黒・黄・白の電線がそれだ。これは、先の基板電力部を写した写真にあるコネクタに繋がっているものだ。AC100V側の電線は2本もあれば良さそうなものだが、先ほど触れた電圧昇降に使われるタップだと思われる。

というわけで、中身は全体的にごちゃごちゃっとしているが、比較的安価なUPSとしては完成度は高くバランスも良いものだと思う。常時商用給電式で、PC数台分くらいならバッテリ容量にも不十分はなく、正弦波出力で比較的安価なものをお求めならこれで事は足りるだろう(足りない場合もあるだろうけど)。同じAPCでBKシリーズというのもあるが、こちらは矩形波出力で、バッテリ持続時間が若干短い代わりに値段はかなり安い。細かいところにこだわらなければ、こちらでも問題はないと思う。高信頼性を求めれば天井の無い世界だから...


ところで、こいつにはコールドスタートという機能がある。つまり、UPS自体が立ち上がっておらず、かつ商用電源が無い状況からでもバッテリからAC100Vを供給するというものだ。本来の使い方ではないが、これは便利かもしれない。ラジオと電気スタンド程度なら数時間は動くだろうから災害時の非常電源としても使えそうだし、ちょっとした電源はいるんだけど、発電機を持っていくほどのことでもないし...なんて時にも使えると思う。しかし、バッテリ容量やインバータの性能から考えれば、決して十分なものではない。インバータ容量は、キロワット級のAPC製UPSが十数万円程度で買えるのでそれで解決するが、問題はバッテリ容量は依然として知れているところだ。

ならば、外部バッテリとか太陽電池なんかも繋いでみたいところだが、内臓のインバータが長時間の連続使用に耐え得る設計がなされているかどうかは疑問だ。常時インバータ式なら言うまでもなく何ら問題はないだろうが、断続的に数十分も動けば良い常時商用給電式のUPSに内臓されているインバータがそのような負荷に耐えるか? この辺も実験してみたかったのだが、24Vを連続して20A近く供給できる電源が無いのでやっていない。


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