名歌で学習 第3回


 但馬皇女、高市皇子の宮に在す時に、穂積皇子を思ひて作らす歌一首
秋の田の穂向きの寄れる片寄りに君に寄りなな言痛くありとも  但馬皇女
あきのたのほむきのよれるかたよりにきみによりななこちたくありとも

 前回、前々回は古今色の強いものだったので、今回は万葉集から持ってきました。
但馬皇女の不倫の歌です。とはっきり言ってしまうと色気がありませんが。
 但馬皇女、高市皇子、穂積皇子の三人は第四十代天武天皇の皇子女で、異母兄弟です。
かなり年上の高市皇子の妃であった但馬皇女が同居していたらしいけども、穂積皇子に惚れてしまったと。
なんとどろどろした3角関係か。このほかに二首が、この密通事件の歌として万葉集に載っています。
 ちなみに、万葉集に三首載っているのは、皇女への非難ではなく、如何ともしがたい思いへの共感であって、男側の気持ちや事件の全貌・結末は問題にならない、というのが一般的な解釈だそうだ。


まずは意味から。
1.秋の田の
2.穂の向きが揃ってなびいている
3.片寄っているように(なびいているように)
4.君に(穂積皇子)に寄りたい
5.(たとえ)噂がひどくても


 この歌は57調(57.57.7)ですが、これも上句が序と言えるでしょう。
君に寄りなな、の寄るを引っぱり出してくるために、稲穂をだしてきたと。
稲穂を出してくるのは不倫相手・穂積皇子の名前も関係ありそうな気がするのですが、それは記述にありません。


 文法を見ていきましょう。
★寄れる=寄る(自・四)に、完了・継続の助動詞「り」が接続しています。
「り」は四段の已然形に接続しますので、「寄れ」+「り」の終止形「る」で、「寄れる」です。意味は、寄っている、ですね。 
 余談。これ、広辞苑で引いたら、「り」は命令形に接続とあり、ずっとわからなかったんですが、学説の違いのようです。
ら抜き言葉か?とか、いろいろ疑ったんですが、短歌文法辞典で確認したら、学説の違いでした。かなり焦った。

★片寄りに=片寄りという名詞に、格助詞「に」です。理由は以下。
一,二句は二句の「寄れる」で止まっています。
一見、名詞でも動詞でも書き出しには問題なさそうですが「片寄る」と言う動詞は自動詞四段。
格助詞「に」は体言もしくは活用の連体形に接続ですから、「片寄るに」でなくてはいけません。
ぱっと見の違いは確かにわずかですし、意味もさほど違いませんので見逃しやすい所です。気をつけましょう。

★寄りなな=寄る(自・四)に、完了助動詞「ぬ」と終助詞「な」(希望)が接続しています。
完了助動詞「ぬ」は連用形に接続なので、「寄り」が確定。
終助詞「な」は未然形に接続なので、前の「ぬ」が「な」に変わります。
結果として、寄りなな。一言で言えば、寄りたい、ですね。

★言痛く=こちたし(形ク)は、人の噂がうるさい、と言う形容詞です。
その下の「あり」に接続するため、連用形になり「こちたく」です。

★ありとも=あり(自・ラ変)に、仮定条件の接続助詞「とも」が接続です。
「とも」は動詞の終止形(または形容詞の連用形)に接続なので、「あり」が確定します。
確定条件の「ども」ではないので実際に噂がひどいわけではなく、四句の「君に寄りなな」と結びつき、例え噂がひどくたって彼が好きなの!みたいな決意のような感じになります。

 今回は骨が折れまくりでした。ぼきぼきです。初っぱなから寄れるでつまづき、片寄りにでも動詞説と名詞説の違いを考え、疲れました。万葉集のほうが難しい気がする。

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