名歌で学習 第五回

士やも空しかるべき万代に語り続ぐべき名は立てずして  山上憶良
おのこやも むなしかるべき よろずよに かたりつぐべき なはたてずして

 今回も万葉集から。独断と偏見でわしの好きな感じの辞世歌です。
病床で見舞いの使者に対して礼と共に読んだ歌だそうです。
男子の本懐が果たせなかった無念がよく表れた歌。
こんなこというと女性の権利ナントカ団体から脅迫状が来そうですな。
士とかいておのこと読ませる例は他にないそうです。ここに、憶良のプライドが表されていると見るべきでしょう。


まずは意味から。
そこら中で使われている意訳は「男子たるものが無為のまま空しく終わって良いものだろうか。いつまでも語り継ぐに値する名声もたてないで。」というものですが、以下やや直訳気味に訳します。
1.(これで)男(と言えるの)だろうか
2.(きっと)空しいだろう
3.いつの代までも・いつまでも
4.語り継ぐに値する(簡単に、語り継がれるような、でも可?)
5.名声も立てないで。


 これは難解です。主・述の関係が非常にわかりにくいと思います。
意訳では男子たるもの、とありますが、「やも」がある以上、これは疑問、反語が元です。
これで男か、と言う気持ちの結論です。名を立てられないことに対しての結論です。
名が立たない=男じゃないという、時代的な常識から「男子たるもの」という意訳が出たのだと思います。
これが結句から初句への倒置?になっていると思います。

 一方、二〜四句もわかりにくい。連体形だからと言って順接で、空しい万代に、では変ですね。
空しいのは本人の気持ちです。これも名が立てられないことに対する気持ちです。
ということは「万代に」「語り継ぐべき」「名は立てずして」はセットになるはずです。
つまり、
「万代に語り続ぐべき名は立てずして(死ぬことは)」→空しいだろうなぁ→これで男といえるのか。
という順序になると思うのです。
倒置が二個来ているのをなんというのか知りませんが、結論を二つ先に言っている。
これで男か? むなしいだろうなぁ。名声を立てずに死んだら。という感じですね。どうでしょうか。

余談。やもは現在では名詞には接続しないようです。
やもは係助詞やと間投序詞もの連語ですが、係助詞やは名詞にも接続しますので、それでおのこやもとなっているのかもしれません。
さらに、空しかるべきは、係助詞やを受けて、連体形で終わっている可能性もあります。


 文法のほうも見ていきましょう。
★おのこやも=おのこ、は男のこと。やもは疑問、反語を示す言葉です。
係助詞やと間投序詞もの連語ですが、現代では名詞からやもには接続しないことから考えると、やは疑問、反語を表し、もは強める意味として使ったのではないかと、勝手に推測です。この辺は学説によって違います。

★空しかるべき=空し(形・シク)を、カリ活用して「空しかる」。これに接続する場合ラ変と同じように扱うので、本来終止形に接続する「べし」もかるべき、と活用させます。べき、と連体形で終わるのは、やもを受けているのではないかと思うのですが、確信が持てません。その場合、345句、12句の倒置になります。

★万代に=限りなく続く世。君が代は千代に八千代に、という発想と同じですね。

★語り継ぐべき=語り継ぐ(他・四)に、推量助動詞の「べし」が接続。空しかるべきの場合と違い、基本通り終止形にべしが接続しています。結句にかかるため、連体形のべきになっています。

★名は立てずして=名は、とする意図がいまいち分かりません。名を、でも良かったような気がします。立て(自・四or他・下二)に、打ち消しのずが接続しますが、ずは未然形に接続します。立て(自・四)の未然形は立た−、立て(他・下二)の未然形は立て−になることから、この場合が他動詞であることがわかります。いや、そんなんせんでもわかるけど、念のため。最後のしては連用形に接続するので、立てずして、となります。


 今回は過去最高凹み記録です。難しかったし、これで確実、とは言えません。
ちょっとした参考にするくらいで読んでもらった方がいいような気がします。
まあ、既存の意訳は文法通りじゃないだろう、と言う目を忘れない、と言うことで勘弁して欲しいっす。

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